よくわかるOrthotropics|矯正歯科の診断・治療法をお探しの方は日本フェイシャルオーソトロピクス研究会まで

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BIOBLOC治療 Q & A

2023年2月16日

Q1この治療は小さな子どもでも簡単にやれますか?
A1小さなお子さんは装置に慣れるのが早いです。すぐに使いこなすようになりますよ。装置には下の奥歯が当たるための棚(Shelf)があり、アゴが楽な位置で噛めるようになっていて、装置を入れたまま食事を摂るように作られています。なので、すぐに入れていることが当たり前になっていきます。
Q2治療中の歯磨きは大変ではないですか?
A2BIOBLOC装置は取り外しできる装置になります。装置の汚れ落としは洗面でできます。お子さんの歯磨きも装置を外した状態でできますし、お母さんの点検磨きも同様で、むしろアゴが広がっていきますから段々と磨きやすくなっていきます。
歯磨きが終わりましたらお口に装置を入れて、噛む力が骨にしっかりと伝わるる様にしましょう。
Q3床矯正では上顎の骨は広がらないと聞きましたが?
A3シュワルツの装置による研究の事で、週1回ネジを回していって上顎の正中口蓋縫合が開くかを検証し、「広がったか判らない、開いていない』という報告になっています。ですが、BIOBLOC治療では45°のネジ拡大を毎日やって頂きます。またShelfで噛み合わせて食事も摂ります。ここがシュワルツの装置とは明確に違いますので、結果も違ってきます。BIOBLOC装置をしっかりと使って頂ければ『上顎骨の発育拡大』という結果が付いてきます。
Q4床矯正治療とどのように違うのですか?
A4シュワルツなどの床拡大装置は、現状の歯を並べる「スペースが足りない」という問題に対し、歯列の側方拡大で対処し歯列、歯並びの改善を図ります。
一方BIOBLOC治療では、お顔が長くなっているとか歯ぐきが目立つとかの立体的な問題も含めて判定し、スクリューを使用しつつ上下で噛ませる事で、上顎骨自体を側方と前方へ広げながら前歯部の骨を上方へ押し上げていきます。アゴの骨に刺激を加えることで、立体的に骨の成長を改善しつつ前方へのお顔の成長を促します。
Q5なぜ顔が良くなるのですか?
A5BIOBLOC治療ではお顔の前方成長を促しています。これは中顔面の前方成長が足りないケースが圧倒的に多いという臨床的な観察に基づきます。加えて今の人たちは総じてお顔が長くなってきています。
分かり易く考えて見ましょう。一般に良く言われる受け口や出っ歯という言葉ですが、これらは上下の歯並びを比べているに過ぎません。受け口なら下アゴが前に出ていて、出っ歯は上アゴが出ているという見方です。
受け口でも上アゴの成長に問題があって上アゴを前に成長させることができるなら、受け口は治るわけです。では出っ歯はどうでしょうか、一般には上アゴが出すぎていると見て引っ込めるのですが、下アゴの成長が遅れているなら、その骨を前に成長させれば問題は解消するのです。この様に遅れている骨の成長を良い方向へ促すように考案された治療方法がBIOBLOCの治療方法なのです。骨の中で歯を動かす方法とは違って、成長を改善し骨や構造を変えることが目的になり、顔が良くなる結果として歯並びも良くなるわけです。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第1回目

2021年6月16日

オーソトロピクスは、「オーラルポスチャーに誘導されて顎顔面と歯列が良好な発育を示していく」、という仮説を前提に構築された治療概念と臨床実践論です。仮説とはいえ、矯正歯科臨床のご経験が豊富な方々には、この生物学的仮説の正しさはよくご理解していただけると思います。
顔面・歯列の形態および機能の由来には、遺伝要素もさることながら、環境因子(呼吸・嚥下・咀嚼・全身の姿勢等)も無視することはできません。そして、それら多様な環境因子は大なり小なり「オーラルポスチャー」へ影響をおよぼします。そのことは、今日の日本の子ども達の顔貌や歯列の急激な変化を見ても明らかでありましょう。

「よくわかるOrthotropics」シリーズを通じて、オーソトロピクスを深く学ばれるためには、ジョン・ミュー氏の講演会へのご参加、あるいは彼が1986 年にその体系を著した『BIOBLOC』の和訳本『バイオブロック・セラピー』を適宜照らしてご覧になることをお勧めいたします。さらには、この治療法に関して多くの治療経験を積んだ会員がおりますので、皆様の研究会へのご参加も、お待ち申し上げる次第です。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第2回目

2021年6月16日

小児歯科専門医である知人が体調を崩した折に話していたことです……「バイオブロック「Biobloc Stage Ⅲ 」も原因のひとつかなア?」。もちろんこれは彼一流の冗談です。

が、それほどにオーソトロピクスにおける、年齢・フェイシャルタイプ・歯牙サイズ、将又(はたまた)耳鼻科形疾患を含めた適用症例の選択は難しく、さらにはオーラルポスチャーの大切さを認識することは容易ではありません。

たとえば、上顎(正確には頬骨・篩骨・口蓋骨・鋤骨・涙骨とで構成される上顎複合体)の側方拡大を「Biobloc StageⅠ(上顎用)」という装置で達成するのはオーラルポスチャー是正の、いわば準備段階です。ところが因果を混同して、「歯牙配列を目的とするのがBiobloc StageⅠ装置だ」、などと他の類似装置とおなじように解釈し、またはその意識に引き摺られていると、従来的矯正歯科治療ではなかなか改善効果の認められない「垂直的な不正咬合」の改善はもとより、非抜歯治療と見誤って所期の目的を納めることが出来なくなります。

実際、診療をしてみればわかるのですが、「Biobloc StageⅠ」で得ることのできた成果を維持するには、多くの場合、「Biobloc Stage Ⅲ」を子ども達がよく使ってくれなくてはなりません。「Biobloc Stage Ⅲ」の目的はオーラルポスチャーの習得と習熟であって、下顎を位置づける装置でもなければ直接的に歯を動かす装置でもありません。

シリーズ第2回目は、お困りの患者さんがいるからといって、「オーソトロピクスの全貌をつかむまでは治療に着手しない、あるいは比較的しっかりとした筋肉タイプ(Mesio~brachy facial type)で下顎はわずかな後退をしめす、叢生の少ない8歳以下症例への対応からはじめるのが望ましい」ということをテーマにお話しいたしました。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第3回目

2021年6月16日

オーソトロピクス治療の開始時期は、成長の阻害因子の排除を含めて早いことが望まれます。
そこで今回は「用語」の整理。
ここのところがゴチャゴチャしていると、オーソトロピクスの成果がおぼつかなくなるおそれがあります。矯正歯科治療に限ったことではありませんが、「Semantics(意味論)」が説かれるには説かれるなりの深いワケがあります。

明別しておきたい「矯正歯科処置の種類」と、そして「オーラルポスチャー」の実質内容を挙げましょう。

【矯正歯科処置の種類】
●【Orthodontics(オーソドンティクス)】
歯牙の移動処置(装置はマルチブラケットを主体とする)
●【Orthopaedics(オーソペディックス)】
顎骨の移動処置(上顎複合体への対応のほか、各種の機能的矯正装置による下顎の成長誘導も含んで言うこともある)
●【Orthotropics(オーソトロピクス)】
顔面の成長の是正、あるいは本来的成長に向けた誘導処置。

【オーラルポスチャーの正しい理解】
●【Orthotropics(オーラルポスチャー)】
正常(生理的)な顎顔面の成長が発揮される条件のことで、
「舌が口蓋に収まり、口唇はかるく閉じる。そして上下歯牙はきわめて近接する(水平成長の発現を期待するのであれば、日中はかるく触れる)状態の維持」。
※ 軟組織の普段のバランスがおよぼす『時間効果』は、短時間に強い力が働く場合よりも絶大! 「オーラル」における「ポスチャー」の大切さ、です。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第4回目

2021年6月16日

今日は「オーソトロピクス(自然成長誘導法)の特色」です。
矯正歯科の歴史的な変遷に照らすと、一目瞭然です。

●1930年代、「上顎の位置は安定しているから変えるべきではない」という、キチキチの考えに多くの矯正歯科医は染まっていました(上顎複合体を構成する骨の形状特性から見てもこれは誤認です)。
●やがて、上の奥歯にバンドという装置をかけて、それを足がかりに首や頭のうしろへネットやストラップ状の装置で引っ張ると、上あごが引かれた方向へ動くことがわかって、徐々に使われるようになりました(上顎後方牽引装置)。しかし出っ歯の患者さんが多い欧州米国では、どうしても「上あご(上の前歯)を下げる」、といった発想に片よりがちとなり、もともと下がっている下あごにあわせようと一生懸命でした。しかし、多くの場合、装置の力系の反作用で下あごもさらに後ろ、かつ下へ落下してしまいました。
●その反省として、下あごも前に、動かすことが出来るのでは? という発想が生まれました。いわゆる機能的矯正装置の登場です。残念ながら、解剖学的な基礎知識不足、下顎の持つ役割のちがい、あるいは個々の患者さんのMuscle tone の違い、口を開けざるを得ない耳鼻科系の病気の関与等々に由来して、効果は不十分、もしくは反作用でさらに下あごも上あごもあらぬ方向へと成長する事例が多々起こりました。もちろん、オーラルポスチャーの重要性に対する認識は、有能な臨床医の一部を除けば、まだそれほど浸透していなかった時代です。
●マルチブラケット(いわゆる針金)全盛期の到来です。面倒は飛ばして、患者さんの主訴である「歯」を見る時代に入りました。そんな時代のうねりに在っても、正常な顔の成長を妨げない、優れた治療法もあるにはあったのですが、「顔を台無しにしてしまう危険の大きい治療」が簡便さゆえに主流となりました。端的には、「歯」の並びを「顔」より優先し、思わしくない結果を来せば手術で骨を動かす・・・そんな時代です。

わかりやすく治療開始年齢10歳(左列)と8歳(右列)の、ともにアングル分類Ⅱ級1類における治療結果の差を示してみました。10歳の女の子の方はマルチブラケットを主体とした治療(オーラルポスチャーの改善は認められず)、8歳の女の子はバイオブロックによる治療(良好なオーラルポスチャーの獲得)です。細心の注意を払っていても、オーラルポスチャーが改善しないと治療後に数年経てば、このような結果を生じることもあり得る、とお考え下さい。
なお、自然成長誘導法における生理的な変化を狙うことの出来る年齢は、一般には、5〜8歳であることを、強調しておきましょう。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第5回目

2021年6月16日

今回は『自然成長誘導法』をご説明しましょう。

『自然成長誘導法』……Web上で一人歩きをはじめている言葉です(笑)。
非抜歯治療(歯を抜かずに並べる方法)・床矯正(上あごにBiobloc StageⅠ様の装置を使う)・医院広告等々……の分野で、しばしばあやまって引用されています。
ある種、魅力的な響きがあるせいかも知れません。「自然」なるものの姿を知ることは。医療では身が引き締まるほどに厳しい課題なのです。

当研究会にて “Natural growth guidance”(ジョン・ミュー氏提唱)の和訳に、用語『自然成長誘導法』を当てた経緯について、説明をすすめます。

いくつかの矯正歯科臨床では、現状がその患者さん(=個体)にとって「生理か?非生理か?」あるいは予後(治療後の推移)を含めて「どうしてそうなったのか?」の大切な判断よりも、創始者が提唱した123‥‥式の術式や理想の値やらが信奉されているきらいがありました。
患者さんは個人個人で性格が違うように、顔立ちと歯列も個性に満ちています。生体には適用に対する許容範囲がある‥‥とはいえ、あべこべに思いついた理想にあてはめてしまうと、どんなことが起こるでしょう?
……ご想像にお任せします。

つまり、患者さんの生活環境・幼少期からの履歴・遺伝要素等々を加味して、バランスのよい本来の状態へ誘導する方が、「治す処置」よりも現実的で、無理のない状態に落ち着くと考えられるのです。‥‥「従来の観方に見落としがなかったとは言い切れないようなので、オーラルポスチャーの重要性へ、ひとつ着目されては如何なものでしょうか?」‥‥あくまでも謙虚に、矯正歯科臨床の歴史に一歩を積み重ねる意味を込めた言葉であると、ご理解下さい。

実は昨今、多くの医療分野でもこの種の問題への反省がようやく喚起されて来ており、ことに慢性病への対応は、疾病形成因子の排除(生活習慣の改善)を投薬や手術よりも、第一義に据える気運が高まっています。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第6回目

2021年6月16日

「患者さんの生活環境・幼少期からの履歴・遺伝要素等々を加味して、バランスのよい本来の状態へ誘導する方が」‥‥と前回述べました。はたしてほんとうなのかどうか? 10年以上におよぶ推移を観察した、バイオブロック治験例を今回はご覧いただきましょう。

●主訴「あごが小さく歯が生えだした時点から重なって心配」という、6歳の女の子。「本人に負担の少ない方法で取り組んでもらえたら‥‥」と、お母様の心情あふれる添え書きもありました。
お姉さんは反対咬合の治療中で、顔と歯列については明らかに異なる遺伝形質を受け継いでいるようです。

ここからは、専門的な書き方ですみませんが‥‥
●【概要】
筋肉系はDolicho type、気道の問題は少ないのですが、すでに開口癖が強く、口唇閉鎖時にオトガイ筋が過剰に緊張、嚥下のときには頬筋・口輪筋が強力に作動します。花粉症による季節的な鼻閉も有り。
多くの経験を積まれた専門医でいらっしゃるなら、容易な処置では済まされない症例であることはご十分に察せられるでしょう。

●【治療の見通し】
① 自然成長誘導法をおこなっても、仕上げ治療(マルチブラケットによる歯牙配列処置)のときは50%ぐらいの可能性で小臼歯抜歯が必要になる
② それを回避するには垂直方向の成長(あくまでも直感的には、形質遺伝として潜在的にはあると想われる)を、水平方向に変換するよりなかろう
③ そのためにはオーラルポスチャーの是正が不可欠である

●【治療の経過】
8歳に治療を開始。すぐにはじめても良かったのですが遅れた理由は忘れました(全くだめです……笑)。オーソトロピクス(自然成長誘導法)は、難易度からするとやや厳しい状況ですが間に合います。

① 上顎と下顎歯列にBiobloc StageⅠを5ヶ月使用、ただちにオーラルポスチャーの是正を目的とするBiobloc Stage Ⅲを装着、ひと月以内に一日に22時間以上の使用が可能なるほどがんばってくれました(ここが治療の最大のポイント!!)。
② 12歳の誕生日までこの装置を気長に使ってもらいましたが、昼間はご本人の自覚で口唇閉鎖と口蓋へ舌をおさめる状態(「オーラルポスチャー」)が維持できるまでに改善したので、途中から夜間のみの装着に変更。
④ 依然、歯はガタガタしているのでR. M. RickettsのUtility arch を中心に7ヶ月間マルチブラケットを用いて歯列も整えました(通常のメカニクスでは顔の成長バランスが一気に崩れるので、きわめて、要注意です!!)。
⑤ ワイヤー保定については、はじめの4年は上下前歯の舌側へ、あとは下顎のみ(4切歯へは現在も接着中)。

●【要約】 写真をよくよくご覧になると、従来の治療では達成できなかった顔貌の変化や「しっくり」とした歯列にお気づきになるでしょう、と同時に、ほんとうの「非抜歯治療」の厳しい現実も “感触” なさっていただければ幸いです。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第7回目

2021年6月16日

今回は、オーラルポスチャーの是正に用いるBiobloc Stage Ⅲ( バイオブロック3 型装置) をご紹介いたしましょう。
ジョン・ミュー氏によって開発されたこの装置は、いくつかの段階的な治療で、上顎複合体や上下歯列を整えたあと、オーラルポスチャーを安定させる目的で使う、いわばオーソトロピクス( 自然成長誘導法) の核心です。
※ 次回研究会例会で調整のdemonstration を行いますので、ご参加下さい。

●目的: くどいようですが「オーラルポスチャーの是正( 生理化)」。
臨床では、おおむねの方向性の正しさは、とても大事。最先端の科学技術を駆使した“高度”医療であっても、治療の方向性( はじめの一歩) が誤っていれば成果は思わしくないことでしょう。
※ Mandibular posturing appliance ではありません。

●効果:「顔( 顔面頭蓋) の本来的な成長の回復および発揮」。
形質遺伝をこえた変化は、もちろん期待できません。しかし、個々人でおおいに異なるとはいえ、成長のポテンシャルが残っている場合は、「場をととのえる治療」の方が、長い目でみて結果がすぐれます。

●適用年齢:「5~ 8 歳が効果的」。
これについては、杓子定規で測るような年齢区分はなく、すべてが臨床者の個別判断となります。鼻づまりや受験勉強による不良姿勢を契機に、ふたたびオーラルポスチャーが乱れる兆候が認められた場合、他の装置で上顎の形状を回復してから歯型をとって新調する事なども、臨床の現場ではあり得るでしょう。
※ 開口癖が出てきた高校生に再度適用する例などがありますが、一般論としてはさし控えておきます。

●使用時間:「日中の装着( 使用)に徐々に慣れて、それから夜間の就寝時もつける。一日に22 時間( フルタイム) 程度をつけたまま過ごす。顔の形態やオーラルポスチャーの改善効果があらわれたら、夜間のみの装着( 使用) へ」。
体の細胞の置換期間は、1 サイクルでおよそ2.5 年。さらに、人間の無意識の行動は幼少期からの履歴の集積ですから、そう簡単には改まりません。気長に使うのがポイントです。

●子ども、ご家族、歯医者さんの共同作業!
スンナリと装置に慣れてしまう子どももいれば、なかなか… … の場合もあります。でも「子ども達は個々の歯並びよりも、顔立ちの良さ」にこそ関心があること大人に変わりありません。お母様と歯医者さんの励ましは大切です。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第8回目

2021年6月16日

オーソトロピクス(自然成長誘導法)における一連の治療システムは、【オーラルポスチャーに誘導されて、顎顔面と歯列が良好な発育を示す】という仮説 から、おのずと導かれたものです。
したがって、臨床のアプローチは論理的に、かつスッキリ構成されています。
複雑事象を簡素化することによって、慎重な臨床対応が可能になる、ということは重要です。なぜなら人は、大切な局面で、一点に向けた精細な制御しか出来ないからです。
ところで、不正咬合の原因を語るとき、いささか注意しなくてはならない言葉が『原因』でしょう。
欧州・米国における『原因』は、一つ前に起きた事象の中で、研究者や臨床家がとくに着目した内容のこと。
一方、我が国における『原因』は、これとは趣が違って、複雑に絡まった経過(履歴)を含めて、時間の流れとして眺めてゆくところに特徴があります。
その辺(あたを)りの微妙な事情を汲んだ上で、オーソトロピクスにおける『原因』をとらえていただきたいと思います。

●不正咬合の原因は、彼の見解によれば、「下(口蓋)からの舌の支持や歯牙の接触(時間効果)が欠落もしくは不足することによって上顎が崩壊、その二次三次の適応変化として下顎が変形する」とのことです。口蓋裂等の例外はあります。先述の欧州米国における『原因』の解釈に照らせばマトを得ています。

●長顔化、歯列の狭窄化、生理的な口唇閉鎖の不全(破綻)、下顎枝の短縮とアンチゴニアルノッチ(抗下顎角)の形成、視覚領域の保全から首を代償的に弯曲変化させる……といったからだの反応を伴うでしょう。
すると皆様は、このような疑問を抱かれるのではないでしょうか?
……「歯の大きさは?」

●実際、日本における矯正歯科臨床の場面では、明らかに歯のサイズが大きいということがあります。これについては別の機会に現実的な対応について述べることにしますが、ジョン・ミュー氏の診療所に来院する患者のほとんどは、診療所を見学した方々はお気づきの通り、我が国におけるような歯牙サイズの問題は少ないように見受けられます。仮に、そのような患者が訪れた場合、他院における異なる治療法を勧めるからでもあります。

●つまり、民族的な差異に加えて、扁桃肥大、慢性的な鼻閉、乳幼児期における軟食による筋肉の活動レベルの低下、無視することのできない形質遺伝の影響を慎重にふまえた上で、日本の臨床者は(も)、きめ細やかな、個別の状況判断をしなければなりません。

「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第9回目

2021年6月16日

今日は【臨床の実感】の大切さ、です。オーソトロピクス(自然成長誘導法)は、とくに肉眼的観察によって、成長の推移をとらえることが重要です。

親知らずを含むすべての歯がきちんと並び、顔もしっかり力強く育っている人を見ることは、きわめて稀です。つまり、大なり小なり「異常なバランス状態」にある人を、自分を含めて私たちは日頃、目にしているわけでしょう。そのような中で、とくに歯のねじれや重なり、しゃべり方や顔貌が、ある範囲から逸脱すると「何かおかしいのでは?」と感じるわけです。

古代人にとって「歯牙」は、生存にとって必要なものであって、それが存分に機能できないことは個体にとっては不利な条件でした。
ところが今は親知らず等々の歯が生えなくても、また八重歯になっていようとも、それが原因で命を落とすことなどありません。これらは、遡ると「正しいオーラルポスチャー」、「生理的な鼻呼吸」、「安定した嚥下」、「強力な咀嚼」……といった機能的要求の不足がベースとなって生じます。もちろん、さまざまな環境因子が関わり合うことも見逃してはなりません。
前者は『廃用萎縮原理』といわれ、俚諺にも『宝のもちぐされ(use it or lose it )』とある通りです。

●歯の並びはもとよりのこと、顔貌についても臨床者は十分な注意を払わなければなりません。もちろん、「見た目」というのは個人における美しさ——他人による評価(=審美性)とは種質の異なるものです。
●ジョン・ミュー氏はケニアに滞在中、人々の顔貌をよく観察した上で、顎骨と歯牙の調和性に関する調査を行い、帰国後イギリスの不正咬合の実状を「実感」したといいます。このような、経験の総和で感触された「実感」というのは、じつは臨床者にとって大切なものです。
「上顎下顎ともに(下方ではなく)前方へと成長する場合、顔貌がより自然となる」という報告も度々なされています(1970 Peek , 1983 Platou ・Zachrisson)。 ●上顎複合体(中顔面部)が下方からの舌による支持を失い落下するがごとく成長し、下顎もそれに適応してMandibular plane angle が増大、Anti-gonial notch が深まり、下顎枝が短縮する(short ramus)ような顔貌をもった人は、昨今、日本だけでなくヨーロッパにおいてもしばしば見受けられます。
顔の垂直化に伴って前頭部(額)は顔面頭蓋に対して後方へ伸展しますが、これは暦年的には鷲鼻・あるいは二重顎として観察されることがしばしばです。

※ スライド左は、1907年のアングルより引いた写真。「アメリカインディアンの顔貌からは、歯並びの良さは容易に想像できよう」との添え書きがあります。右はオーラルポスチャーの問題を持つ人の典型的な顔貌と骨格所見、すなわち長期にわたる経時的変化を示しています(日本人成人女性)。

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