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John Mew講演会、2014年12月7日

2021年6月16日

Part1:John Mew講演会
東京ステーションコンファレンスにて、2014年12月7日に開催されました。
今回から少しずつ、オーソトロピクス講演内容を振り返ってみましょう。「オーソトロピクス」を構成するテクニックのごく一部が我流に解釈されて世界に広まったところで、あまり意味がありません。
昨年暮れ、John Mew先生とさまざまな意見を交わし、本筋をきちんと伝え残すにかぎると思われてきた次第です。「為にし」「名を借る」ひとはいつの時代にも絶えませんが、あまりにも寂しい生き様に思えます。
異なる意見に対して誠意をもって議論し、Professionalbaseでは一致が見られなくても、個々人の文化や価値観の特長を尊重し、また現行の矯正歯科の問題に鋭く切り込み、なによりも臨床の実績を積み、より豊かな人生をおおくの患者さんに歩んでもらいたいとの、85歳になった彼の為人(ひととなり)も、ささやかながらご紹介できれば幸いと思っています。

Part1は、本講演会における、オーソトロピクスの概要の紹介、観察の要点、骨格と歯列への力学的アプローチ、口腔諸筋群への対応、の4部から構成される、いわば導入部の解説です。

(1)General introduction
(a) 形質人類学におけるヒトの顔の変化
(b) とくにクロマニョンと比較して特徴的な現代人中顔面部の変化
(c) 同下顎骨の変化、なぜ垂直成長が助長されるようになったのか(aetiology)
(d) 正常咬合者における口腔の成長発育の様相(Oral postureとの関連に絡めた話)
(e) 頭蓋の中における中顔面と下顎の成長
(f) Oral postureの不全と口腔顔面成長の相関性を強く示唆する症例の閲覧
(g) Orthotropicの作業仮説にまつわる他研究者の論文閲覧
(h) 予後の予測

※一般に、漠然と日本語に「予後」と訳出されている“prognosis”は、内容の截然とした言葉です。
患者さんの家族歴と履歴性や病状の進行度を、術者の臨床経験や多数の臨床報告を踏まえて言うときの言葉で、自然の推移と人為介入を行ったときの、それぞれについての高度な判断です。オーソトロピクス臨床では、Oral postureを整えたときと、不全のまま放置した場合の、顔と歯列、筋機能の推移に関する予測を指します。

(2)Reading the face(観察箇所の勘所)
※“reading”は異常バランスの兆候をとらえるという意味があるので、白人小児人口におけるJohn Mew自身の診断法の基本を示したもの。
(a) 前方の頭蓋基底を代表とする前額部からみた顔面の変化
※矯正歯科では、「頭蓋基底」の解釈に少なからぬ混乱が見られます。頭蓋基底を構成するのは、環椎と関節する後頭骨、医学生が頭蓋を学ぶときに一番苦労する蝶形骨(これがわからないと顔の成長理解はおぼつかない)、前頭骨、ときには聴覚平衡感覚に関わり顎関節の起点を提供する側頭骨もこれに含めます。前頭鼻骨縫合(Nasion)は、頭蓋基底の前方参照点です。前額部は、その直上にあって、顔の成長や老化の変化を知る上で、有用です。ただし、下垂体を包蔵するSellaは機能的には視床下部と密接に関わり、蝶形骨洞の上にあるとしても神経頭蓋に区分され、顔の成長とは無関係です。John Mew先生は講座のなかで「顔面成長の変更がセラ点の位置を変える可能性があるのではないか?」と述べていますが、むしろ人為処置の介入が不能な領域として、頭蓋基底の個体的特性、具体的には、Ba-CC,CC-Na,Polionlocation,Cranial deflectionに合わせて我々は不正咬合と顔貌を解釈し、治療計画を練り上げ、治療の前に予後を判断しなければなりません。
(b)臨床上とても簡便なインディケーターラインの活用
※あくまでも、ひとつの参考とすべき基準値です。もともと面長の日本人では、この値は正常咬合者でも大きくなります。したがって、顔の骨格のバリエーション、発育に関する履歴性や遺伝特性、年齢変化を加味しなくてはなりません。そうしないとJohn Mew先生があれほど「指標に過ぎない」と口を酸っぱくして言うのにもかかわらず、「Indicator line値」が一人歩きするでしょう(笑)。
(c)頬のふくらみ
※cheek lineは人が直感的に相手の表情をとらえる場所ですが、単に骨格の前方発育度を代表するわけではなく、各種の表情筋の協調活動に依存して同一個体でも大きく変わります。さらに術者がトリックモーションを指示すれば5mmくらいは容易に膨らみの度合いが変わるので、顔写真だけの情報を鵜呑みすることは控えなくてはなりません。
頬骨は、セファログラム上ではOrbitaleの参照点を提供し、上顎骨と強固に縫合しています。ですから頬骨にレストを設置して上顎骨あるいは中顔面を前方に成長させようとする方法は、解剖学的知見からも、大いに修正されてしかるべきです。

(d)Lip sealとTongue postureの観察と臨床判断
※筋肉の動態と普段の相対位置は骨格や歯列の健全な発育に欠かすことが出来ません。矯正歯科が専門に医療になった1900年以前から、このことは広く知られていましたが、オーソトロピクス臨床では、あらためてその大切さが強調され、かつBiobloc Stage3(ときには4)という装置を用いた具体的なアプローチが提唱されています。

(3) The Biobloc appliance:その1
Biobloc Stage1と2、Purley wireの併用
※上顎用のステージ1、下顎用のステージ1は、使用目的も設計もまったく異なります。ステージ2は、上顎複合体のorthopedicな側方拡大変化を維持し、インディケーターラインの値を減じた上顎切歯を保つ、舌房を可及的に犯さない装置。また、前方や側方への下顎の突き出し癖を口腔前庭部に設定したワイヤーによって改善を目指すのがPurleywire。

(4) The Biobloc appliance:その2

Biobloc Stage 3と4
※前の項目(3)は、オーラルポスチャー是正へ向けた、いわば準備的段階でした。ここから、本格的な対応へすすみます。装置は臨床アプローチのすべてではありませんが、都合、子どもたちに対して、正しいオーラルポスチャーを習熟する手助けとして装置は極めて有効です。前方と後方のソフトロックのデザインが共通するステージ3と4のおもな違いは、後ろの維持歯にかける特殊クラスプの遠心に、レスト設けられているか否か、です。上顎第二乳臼歯がぐらつく、または脱落した症例では、装置が不安定となってロックの効果が十分には発揮できません。対策として、前歯に維持部を増設します。これがステージ4という装置。オーラルポスチャー是正を目的とする装置には、VTやHoffmanといったさまざまなモディフィケーションがあります。

(5) Changing“posture”=オーソトロピクス臨床の核心部
(a)Oral posture and Muscle tone
(b)Thumb sucking
(c) 頬筋の肥大
(d) Oral myotherapy

※口腔諸筋群に対する理学療法です。1910年から20年代には、アルフレッド・ポールロジャースという臨床医が、このことに注目をして、装置の考案もさることながら、今日の我々から見てもすぐれた臨床成績を収めています。Myo-functional therapyとほぼ同義ですが、posture の重要性へ注目するJohn Mew先生は、このんでOral myotherapyといいます。また、耳鼻科系疾患である呼吸障害へのアプローチを含むので、他科医療との連携は、多くの日本人小児患者への対応では必須となりましょう。言語療法と絡んで発達してきた分野ですので、正しい英語の構音を目的とした訓練も混在します。日本人の、それもとくに口腔顔面の発育にあわせた療法へ改良するに超したことはありません。ともあれ、動的ならびに静的な、筋肉を含めた軟組織へのアプローチは、オーソトロピクス核心をなします。この領域の計測そのものは容易ではなく、経時要素も錯綜します。“dormantな状態(遺伝特性が休眠状態に放置されているが、抑制を排除すれば時間的には回復のまだ間に合うもの)”への評価は一層困難です。複雑系科学でしばしば提唱される「初期条件に敏感」は、muscle toneについても当てはまるので、どの程度の復元が期待できるかは、謙虚に臨床を重ね、科学的に厳しく評価を下していく以外にそれを知る方法はないかも知れません。分野を問わず散見される「一発確信屋さん」がしばしば陥る過ちでしょう(笑)。ですから臨床者は常に謙虚でなくてはなりません。ぐるりと一巡して、ここに、Prognosis,Diagnosis,Treatment planning,そして装置の扱いや筋肉への理学療法、他科との協力体制、そして治療全般を通じた客観的なmonitoringの大切さに、我々は振り戻るわけです。
・・・みのるほどこうべをたれる稲穂かな

以上、講演会の概要でした。

Part2から、具体内容を、John Mew 先生の臨床の背景となった欧州の史的変遷と臨床活動の原動力に迫って、日本人専門医の目から楽しく検討していきましょう!!