「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第9回目
2021年6月16日
今日は【臨床の実感】の大切さ、です。オーソトロピクス(自然成長誘導法)は、とくに肉眼的観察によって、成長の推移をとらえることが重要です。
親知らずを含むすべての歯がきちんと並び、顔もしっかり力強く育っている人を見ることは、きわめて稀です。つまり、大なり小なり「異常なバランス状態」にある人を、自分を含めて私たちは日頃、目にしているわけでしょう。そのような中で、とくに歯のねじれや重なり、しゃべり方や顔貌が、ある範囲から逸脱すると「何かおかしいのでは?」と感じるわけです。
古代人にとって「歯牙」は、生存にとって必要なものであって、それが存分に機能できないことは個体にとっては不利な条件でした。
ところが今は親知らず等々の歯が生えなくても、また八重歯になっていようとも、それが原因で命を落とすことなどありません。これらは、遡ると「正しいオーラルポスチャー」、「生理的な鼻呼吸」、「安定した嚥下」、「強力な咀嚼」……といった機能的要求の不足がベースとなって生じます。もちろん、さまざまな環境因子が関わり合うことも見逃してはなりません。
前者は『廃用萎縮原理』といわれ、俚諺にも『宝のもちぐされ(use it or lose it )』とある通りです。
●歯の並びはもとよりのこと、顔貌についても臨床者は十分な注意を払わなければなりません。もちろん、「見た目」というのは個人における美しさ——他人による評価(=審美性)とは種質の異なるものです。
●ジョン・ミュー氏はケニアに滞在中、人々の顔貌をよく観察した上で、顎骨と歯牙の調和性に関する調査を行い、帰国後イギリスの不正咬合の実状を「実感」したといいます。このような、経験の総和で感触された「実感」というのは、じつは臨床者にとって大切なものです。
「上顎下顎ともに(下方ではなく)前方へと成長する場合、顔貌がより自然となる」という報告も度々なされています(1970 Peek , 1983 Platou ・Zachrisson)。 ●上顎複合体(中顔面部)が下方からの舌による支持を失い落下するがごとく成長し、下顎もそれに適応してMandibular plane angle が増大、Anti-gonial notch が深まり、下顎枝が短縮する(short ramus)ような顔貌をもった人は、昨今、日本だけでなくヨーロッパにおいてもしばしば見受けられます。
顔の垂直化に伴って前頭部(額)は顔面頭蓋に対して後方へ伸展しますが、これは暦年的には鷲鼻・あるいは二重顎として観察されることがしばしばです。
※ スライド左は、1907年のアングルより引いた写真。「アメリカインディアンの顔貌からは、歯並びの良さは容易に想像できよう」との添え書きがあります。右はオーラルポスチャーの問題を持つ人の典型的な顔貌と骨格所見、すなわち長期にわたる経時的変化を示しています(日本人成人女性)。