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「よくわかるOrthotropics」シリーズ 第13回目

2021年6月16日

【上顎Biobloc StageⅠ 】
今回はちょっと長め… … Biobloc Stage1( バイオブロック ステージ1 型)の深い内容をギュッと圧縮しました。

【写真1 , 2 】
Biobloc Stage 1 の取り扱い方のまえに、まずは類似の「ネジ式歯並び装置」を2 年間使った患者さんの一例をみてみましょう。治療の目的も目標もオーソトロピクス( 顎顔面の成長発育の誘導処置)とはちがう、一般的なものです。

拡大ネジを作動させる速さ( 上顎骨と口蓋骨の間の骨のつなぎ目を拡げる速さ)は、学派によって意見がまちまち。もちろん杓子定規ではかったように子ども達のアゴが反応するわけではありません。ネジ式装置の歴史は1875 年に遡ります。ですから、拡大速度に関する論文は山のようにあります。
このお子さんの場合、速さはとてもゆっくり( 緩徐)。2 年間で5mm 程度といったところ。夜間のみの装着なので、致し方ありません。

P-A Cephalogram( 写真1 ) では、上顎歯列とは表裏の関係にある鼻腔は狭いまま。正中口蓋縫合も拡がった形跡はみられません。つまりこの矯正歯科装置の成果は、奥歯を横へ傾けた、歯槽部に限局した変化でした。
残念ながら、上顎洞炎( 黄色で囲んだところ) も疑われます。

仮に鼻腔が狭いとして、それがオーソトロピクスペディック( 顎整形的)な矯正歯科装置によって旺盛に拡がると、ひどい鼻炎や扁桃肥大が伏在しないかぎり、多くの小児で鼻呼吸が楽になることが知られています。すべての小児症例に当てはまるわけではありませんが、ときおり慢性的な副鼻腔炎の改善がみられることがあります( これについては患者さんの生活からはじまり複雑な生体反応が関係するので、学会でも意見が分かれますが… … )。

また、上の前歯は内側に傾いています( 写真2 )。
装置の拡がりと調和する形で表側のワイヤー( 唇側線)を歯から離すように毎回調整( 写真5 )すればこのようなことは起こらないのですが、乳歯の奥歯にはめる装置維持の機構( クラスプ、写真4 )がしっかりしていないと、装置を飲み込んでしまう恐れがあるため、術者の気持ちとしてついつい唇側線を歯に触れさせがち… … すると歯列が横に拡がるにつれて前歯は内側に押しやられます。断層写真で見ると犬歯の生えるべき隙間が確保されてはいません。青が犬歯の幅、赤が現状です。

【写真3 , 4 , 5 】
オーソトロピクス(Orthotropics=自然成長誘導法)における変化を診てみましょう( 写真3 )。7 歳5 ヶ月の男の子です。

写真3 の左は治療前、中央はBiobloc Stage1 で上顎複合体全体を横へ拡げて各縫合部を緩めている途中です( 歯が並ぶ場所が確保されてくるのは あくまでも一連の変化の「結果」である点に注目! ! )。右はオーラルポスチャーの保全を目的として、ネジのないスッキリしたデザインのBiobloc Stage 2 へ移ったところ。

セミラピッド拡大( Semi-rapid expansion) と付されているのは、1 週間ごとにおよそ1 mm 正中口蓋縫合を拡げる「速さ」の意味です。 もちろん前回、上顎複合体の解剖図で示しましたとおり、頬骨と上顎骨本体の縫合を除けば、中顔面の領域全体に変化が及んでいます。術者は歯にばかり気持ちを奪われてはいけません。

装置を外すのは、就寝前の歯を磨くときの5 分間だけ。
すると皆様はこう思うかも知れません… …「ああ、子どもがかわいそう」。
ところがBiobloc Stage1 の適用が可能な8 歳ぐらいまでの子ども達は、驚くほどに適応能力が高いものです。
「再びつけたときの違和感はイヤ! 」と、5 分間でも装置を外すのを嫌がる子どももいるくらいです。もちろん食事中もつけたまま。歯列に対して装置がピッタリと安定するのは、実は把持部に様々な工夫が凝らされているからです( 写真4 )。
どの技工所に装置を作ってもらうか? あるいはクリブクラスプ、レスト、唇側線、カテナリーワイヤー等々の調整については、見よう見まねで行うのはあまりにもアヤうい( 顎顔面が良好な成長発育を発揮する機会を提供できないでおわる恐れ、といった方が適切でしょう)。
♡ 研究会例会へお足を運んで下さいね( 笑)。

写真5 は、唇側線とカテナリーワイヤーです。オーソトロピクスの創始者John Mew 先生は、前歯を上前方に圧下( 伸び出た歯を骨に戻す)させることを推奨していますが、( 1 )もともと前歯が飛び出て、( 2 )歯列の奥行きがなく、( 3 ) 頭の形も横に拡がる日本人、とりわけ( 4 ) 鼻が悪く唇が開き加減、( 5 ) 足腰がしっかりしていない子ども達では、転倒の拍子に歯を折りかねません。このように、もともと「閉唇・舌の挙上・鼻呼吸」といった条件が整いにくい場合や、明らかに小臼歯抜歯を必要とする症例においては、術者は個別判断を慎重に検討しなければならないでしょう… … さらなる慎重を期して。

【写真6 】
正中口蓋縫合の側方拡大が順当になされているかどうかは、仔細に口の中を診ればわかります。バイオブロック装置では装置の構造上、口蓋粘膜が多少荒れてしまって観察しにくいかも知れません。
写真はQuad Helix という別のタイプで同様の処置を行ってる5 歳の女の子。白い帯状の線が、縦に2 本走り、中央がやや凹んでいるのがわかります。くぼみの粘膜の下で、骨が新生しています。
肉眼観察は基本中の基本ですが、専門医の方は、写真1 で示したP-ACephalogram を撮影なさると、鼻腔に対する効果の他にもいろいろな変化にお気づきになる事でしょう。
※ 「オーソトロピクス」とそれにまつわる認定医制度を標榜するWeb サイトが見受けられますが、本研究会とは関係ありません。